DXの進め方
いま価値のない記録が、来年の資産になります。
音声、動画、画像、そして数字。少し前まで、溜めておいてもあまり使い道のなかったものが、扱う側の進歩によって、価値を持ちはじめました。
価値は、後から追いついてくる
数年前まで、会議の録音は聞き返すのが面倒なだけのものでした。1時間の会議を確認するのに1時間かかるなら、誰も聞き返しません。だから録らない。当時としては正しい判断でした。
指導の面談も同じです。記録しておいても、結局は活用されない。手間だけが残る。
いまは違います。1時間の会議の音声から、要点も決定事項も宿題も整理されて返ってきます。指導の記録は、本人へのフィードバックの材料になります。
データそのものは変わっていません。扱う側が変わりました。
だから、いまは残すことを優先する
ここから言えることは、はっきりしています。
いま使い道が思いつかない記録も、一年後、二年後には使えるようになっている可能性が高い。この分野の進歩の速度を見ていると、これはかなり確度の高い予測です。
そして、記録していなかったものは、後から取り戻せません。あのとき録っておけばよかった、と思っても遅い。
ですので、判断はいったん保留して、とにかく残しておくことをお勧めしています。会議の音声、指導の面談、手技の動画、日々の数値。これらは、そのまま医院の資産になります。
手順は、動画で撮るのがいちばん速い
手順書づくりは、たいてい後回しになります。スタッフにお願いして、二ヶ月経ってもできてこない。よくある話です。
できないのは、能力の問題ではありません。文章にまとめるという作業に慣れていないだけです。
ですので、私は文章から始めないことにしています。まず、実際にやっているところを撮る。喋りながら手を動かすだけです。所要時間は、その作業にかかる時間そのものです。
あとはその動画から手順書を起こせばいい。写真を差し込み、順番を整える程度の手直しで形になります。二ヶ月かかっていたものが、その日のうちに終わります。
数字は、感覚を裏切ります
私自身、矯正相談の契約率が落ちていた時期に、自分のカウンセリングをすべて録音して分析させたことがあります。
分かったのは、嘘をついていたわけでも、押しが足りなかったわけでもないということでした。伝えるべきことが抜けている。必要性をネガティブな言い方で伝えている。ただそれだけでした。
自分では気づけません。毎日やっていることほど、自分の癖は見えなくなります。客観的なデータを自分に返して、はじめて見えました。
これは、記録が残っていなければできなかったことです。記憶を頼りに振り返っていたら、たぶん一生気づいていません。
何を残すか
抽象的なままだと動けないので、具体的に挙げておきます。
会議とミーティングの音声。これがいちばん費用対効果が高い。録音するだけで、議事録の作成という作業が実質なくなります。
指導や面談の音声。本人へのフィードバックの精度が変わります。指導する側の振り返りにも使えます。
手技や作業の動画。手順書のもとになります。撮るのに追加の時間がかからないのが利点です。
日々の数値。予約、キャンセル、初診、次回予約の有無。後から遡って集計できる形にしておく。
院内向けに書いた文章。連絡、説明、案内。これらは自院の言葉づかいの見本になります。
置き場所は、一箇所にまとめておく
残すことより、後から見つかることのほうが大事です。
いろいろな場所に散らばると、結局は探せません。個人のパソコン、共有フォルダ、スマートフォンの中、紙のノート。この状態は、残していないのとあまり変わりません。
ですので、クラウド上に一箇所を決めて、そこに集めることをお勧めします。端末が壊れても消えないこと、複数人が同時に見られること、外からもアクセスできること。この三つを満たしていれば、細かい選び方はあまり重要ではありません。
そしてもう一つ、後から取り出せる形式で持っておくことです。特定のサービスからデータを出せない形で溜め込むと、乗り換えたくなったときに動けなくなります。
残したものを、腐らせない
溜めるだけでは、いずれ使われなくなります。
最低限やっておきたいのは、名前の付け方を決めておくことです。日付と内容が入っていれば十分です。これだけで、検索で見つかる確率がまったく変わります。
それから、古くなったものを分けること。手順が変わったのに古い動画が残っていると、新人がそれを見て覚えてしまいます。消さなくても構いませんが、「旧」と分かる場所に移しておく必要があります。
いちばん残っていないのは、判断の理由
最後に、あまり指摘されないことを書いておきます。
手順は残ります。数字も残ります。残らないのは、なぜそう決めたのかです。
なぜ担当制にしているのか。なぜこの器具を使っているのか。なぜこの順番なのか。これらは院長先生の頭の中にあって、日常業務では言葉になりません。そして、いちばん引き継ぎが難しいものでもあります。
会議の録音を残しておくと、これが副産物として残ります。決定そのものより、決定に至るまでのやり取りのほうが、後から効いてくることがあります。