DXの進め方
最初に入れるべきは、システムではありません。
「何から手をつければいいですか」。講演のあとで、いちばん多くいただく質問です。答えはいつも同じで、情報共有と教育から、とお伝えしています。
道具を増やすと、確認する場所が増える
新しいシステムをいきなり入れても、多くの場合は定着しません。情報が集まる場所が、まだ決まっていないからです。
「言った・言わない」「あの人しか知らない」という状態のまま道具だけ増やすと、確認しなければならない場所が増えるだけになります。予約はこのシステム、連絡はこのアプリ、手順書は共有フォルダ、そして結局いちばん確実なのは先輩に訊くこと。導入したのに前より探す時間が増えた、という話は珍しくありません。
これは経済産業省がDXレポートで指摘した構図と、規模こそ違え、同じものです。部門ごとにばらばらにシステムが作られ、全体としてはデータが使えない。大企業で起きていることが、そのまま起きています。
順番は二つだけです
まず、情報が集まる一つの場所をつくる。次に、それを全員が毎日見る習慣をつくる。
この二つができて初めて、その上に載せる道具が効き始めます。逆にこの二つがあれば、載せる道具は後からいくらでも差し替えられます。
場所は、立派なものである必要はありません。全員がスマートフォンから開けて、更新した内容がすぐ反映されて、どこに何があるか迷わない。この三つを満たしていれば、まずは十分です。
中身より、毎日そこを見ること
私の医院では、朝礼と終礼の内容を、特に共有事項がない日でも必ず投稿することにしています。
中身よりも、毎日そこを見る習慣のほうが大事だからです。「特になし」でもいい。そこを開くことが当たり前になっているかどうかが、後で効いてきます。
逆に、大事なときだけ投稿する運用にすると、誰も見なくなります。見る習慣がないところに重要な連絡を置いても、届きません。
仕組みは、文化になって初めて回り始めます。
「入れた」で終わらせない
導入がうまくいったかどうかは、こう判断しています。
特定の人だけでなく、組織全体が使っている。使うのが当たり前になっている。それが無いと仕事が進まない状態になっている。そして、必要に応じて更新され続けている。
ここまで来て、はじめて定着したと言えます。入れたけれど使われていない、あるいは入れた当時のまま止まっている、というのは成功ではありません。
そしてこれは、道具の問題ではなく運用の問題です。だから、導入を決めた人が現場に任せきりにすると、たいてい止まります。実務は担当の方にお願いするとしても、定期的に進捗を確認し、必要な後押しをする。この役割は、決めた人が持ち続ける必要があります。
スタッフには、その人の利益で説明する
院長先生にとっての利点と、スタッフにとっての利点は違います。ここを取り違えると、抵抗されます。
たとえば紙をやめる話をするとき、経営側から見れば保管場所と管理コストの話です。しかし受付の方から見れば、前日の準備作業が毎日1〜2時間なくなる話です。後者で説明したほうが、当然ながら伝わります。
同時に、移行の期間だけは負担が増えることも、正直に伝えたほうがいい。隠して始めると、負担が出た時点で信用を失います。
「一つの場所」に、何から置くか
場所を作ると決めたあと、次に迷うのは中身です。あれもこれも、と考えると重くなって止まります。
最初に置くべきは、毎日発生する情報です。朝礼と終礼の内容、申し送り、その日の連絡事項。ここが入っていると、見る理由が毎日発生します。
次が、頻繁に探されるもの。手順書、院内ルール、書類の様式。「どこにあるか分からない」と訊かれるものから順に入れていくと、効果が体感しやすい。
数字やダッシュボードは、その後で構いません。役に立ちますが、毎日見るきっかけにはなりません。順番を間違えると、立派だけれど誰も開かない場所ができあがります。
運用の責任者を決める
仕組みが止まる原因の多くは、道具ではなく担当の不在です。
私が支援先で必ずお願いしているのは、運用責任者とサブ責任者を決めていただくことです。二人にするのは、一人だと休みの日に止まるからであり、その人が辞めたときに全部が消えるからでもあります。
役割は難しくありません。中身が古くなっていないかを見る。使われていない部分に気づく。困っている人の声を拾って直す。作る人ではなく、回す人です。
新しい会議は、作らないでください
定着させようとして、専用の会議体を作る医院があります。たいてい、半年で消えます。忙しい医院ほど、増えた会議から先に無くなるからです。
私がお勧めしているのは、既にある全体ミーティングの中に組み込むことです。数分でいいので、誰かが自分の使い方を話す時間を作る。それを毎回続ける。
これには副次的な効果があります。人によって、使い方の方向がまったく違うことが見えてくるのです。同じことを一緒に学んでも、事務作業に活かす人、教育に活かす人、数字の整理に活かす人と分かれます。その多様さが共有されると、他の人の発想が刺激されます。
課題意識を持っている人ほど、成果が大きく出ます。
これは、道具の性質です。困っていることがはっきりしている人ほど、使い道が具体的になる。だから、全員に同じ課題を与えるより、それぞれが自分の困りごとを持ち寄る形のほうが機能します。
アナログのほうが優れている場面もあります
誤解のないように書いておくと、私はデジタル化そのものを目的にしているわけではありません。効率を追い求めた結果、その手段としてデジタルを使う場面が多いだけです。
業務によっては、アナログのほうがはるかに優れている場合があります。患者様への説明資料は、あえて紙でお渡ししたほうが記憶に残ることもあります。手元で書いたほうが速いメモを、わざわざ入力し直す必要もありません。
デジタルにしたほうが明らかに得なところから、順番に。それだけです。