Dental DX / AI

コラム一覧

AIとの向き合い方

新しい治療と、新しい道具は、試し方が違います。

私たちは新しい治療を始めるとき、入念に準備をします。その慎重さは職業上の美点ですが、そのまま道具に持ち込むと、いつまでも始められません。

私たちは、慎重であるように訓練されています

新しい治療を始めるとき、私たちはかなり入念に準備をします。文献を読み、リスクと利点を整理し、患者様に説明し、手技のトレーニングを積んで、はじめて実践に移す。当然のことです。失敗が、目の前の人の体に返ってしまうからです。

この慎重さは、私たちの職業のいちばん良いところだと思っています。ただ、それをそのまま新しい道具に持ち込むと、いつまでも始められません。

設備やシステムも同じ構造を持っています。導入すれば数百万円が動き、一度入れたら簡単には抜けられない。だから何ヶ月も検討する。これも合理的な判断です。

失敗しても、誰にも迷惑がかかりません

ところが、いま話題になっている類の道具は、この構造から外れています。

試してみて、思ったような答えが返ってこなかったとします。それで誰かが困ることはありません。もう一度、訊き方を変えて訊けばいいだけです。患者様に不利益はなく、スタッフの時間も数分しか使いません。

失敗のコストが、そもそも違います。

費用の面でも同じことが言えます。多くが月額で、無料で使える範囲も広い。合わなければ翌月にやめられます。設備投資と同じ重さで検討していると、検討している時間のほうが高くつきます。

完璧を求めないでください

初期に触って「使えない」と感じた先生は多いと思います。私もそうでした。

ただ、こちらの側にも慣れが要ります。どう頼めば欲しいものが返ってくるのか。何を先に渡しておけばいいのか。どの作業は向いていて、どの作業は向いていないのか。少しずつ掴めてくると、できることが増えていきます。

最初から完璧を求めるより、小さく試して、うまくいったやり方を見つけて、それを繰り返す。この回し方のほうが、結果的にずっと早いです。

一度で満点の答えが返ってくることは、そもそもあまりありません。「ここをこう直して」と何度かやり取りして仕上げていくものだと思っておくと、期待値がずれません。

全部を一度に変えない

医院で何かを導入するときも同じです。最初から全機能を使おうとせず、一つの機能を、一つの部署で試してみる。うまくいきそうなら、そこから広げる。

そして、後戻りできる状態を保っておくこと。試験的に入れて、駄目なら元に戻せる。そう決めておくと、判断が軽くなります。「絶対に成功させなければいけない」という前提を外すだけで、意思決定の速度はかなり変わります。

最初に触るのは、院長先生ご自身がいい

スタッフに任せて様子を見る、という進め方をされる方がいます。私は逆をお勧めしています。

理由は二つあります。一つは、どこまで任せられて、どこからは危ないのかを、判断する立場の人が体感で分かっていないと、後のルール作りができないからです。触ったことのないものに、適切な線は引けません。

もう一つは、スタッフの側から見たときの安心感です。院長先生が自分で試していて、その上で「これは使っていい」と言っているのと、よく分からないまま「使ってみて」と言われるのとでは、受け止め方がまったく違います。

時間は、そんなにかかりません。一日15分を二週間ほど続けると、だいたいの感触は掴めます。

どこから試すか

試す場所の選び方にも、順番があります。

まず、患者様に直接触れないところから。院内向けの文章、議事録、手順書の下書き。ここで失敗しても、外には出ません。

次に、失敗してもすぐ気づけるところ。自分が内容をよく知っている領域です。詳しくない分野で試すと、間違っていても気づけないので、判断材料になりません。

そして、いま実際に時間を取られている作業から。興味本位で珍しいことをやってみるより、毎日15分取られている作業を10分にするほうが、続きます。

やめる基準も、先に決めておく

始める話ばかりしましたが、やめる話も同じくらい大事です。

試すのが軽いということは、抱え込むのも軽いということです。気づくと、使っていないものの月額だけが積み上がっている、という状態になりがちです。

ですので、始めるときに期限を決めておいてください。一ヶ月使ってみて、この作業が実際に短くなっていなければやめる。そう決めておけば、判断のときに悩みません。

やめたことは失敗ではありません。合わないと分かったのは、それ自体が成果です。設備投資と違って、その判断が数万円で済むところが、この領域の良いところです。

やらないことのコストは、見えにくい

導入にはコストがかかります。これは見えます。一方で、やらなかったことのコストは見えません。

毎日15分の探し物。毎月2時間の集計作業。新人が入るたびに一から説明し直す時間。これらは請求書として届かないので、経営上の数字には現れません。しかし確実に払っています。

見えている支出と、見えていない支出。比べるときは、両方を机の上に出してから比べたほうが、判断を誤りません。

株式会社デンタル・デジタル・ウェルビーイング
代表取締役 高野 祐(歯科医師)

ほかのコラム

コラムをすべて見る

ここに書いたことを、貴院の状況に当てはめて話します。
まずは30分、現状をお聞かせください。